子供のⅠ型糖尿病 理解を

幼児期から思春期に発症することが多い「1型糖尿病」。
毎日、インスリン注射などで血糖値を管理する必要があり、心身ともに負担も大きい。
学校生活を安全、安心に過ごすためには、周囲の理解が欠かせない。

制限なく通学、支援重要

家族とも友達とも、「透明なガラス」で隔てられている―。
札幌市厚別区の田中さをりさん(55)は、三男の景さん(12)が発した言葉が頭から離れない。

 景さんは小学4年で1型糖尿病を発症した。
病気はクラスメートに周知したが、給食前に行うインスリン注射や、
低血糖時にエネルギーを補給する「補食」は学校側の提案で、保健室で行った。

孤独で抑うつに

 弱音を吐かずに変化を受け入れていたようにみえたが、
1カ月たったある日、学校に行けなくなった。
立ち上がることができないほどの、抑うつ状態だった。
田中さんが聞くと、景さんは「孤独だった」と話した。

 景さんは自宅で、一人でインスリン注射をすることが多かった。
本人は「大丈夫」と言ったが、
「針を刺す瞬間だけでも、一緒にいてあげればよかった。
『自分はみんなと違う』と一層感じたのだろう」と田中さんは悔やむ。

 「医療機器などのサポート技術は向上したが、本人の抱える大変さは決して楽になったわけではない」
と話すのは、市立札幌病院小児科部長の佐野仁美医師。
佐野医師は1型糖尿病の子が学校生活に復帰する際は、
保護者だけでなく学校にも病気の留意点を説明している。

適切に血糖管理ができれば日常生活に制限はなく、体育や部活、泊まりがけの行事も問題ないと強調する。
佐野医師は「目標は可能な限り周囲と同じ生活をして、
子どもが前向きな気持ちで治療し、劣等感なく自立すること」と考える。

 血糖測定やインスリン注射については「本人が教室でやりたいと望んだら、その勇気を尊重してほしい」という。
「どこでやるか、どこまで周知するかは本人の意思が第一。
年齢が小さいうちは最初の段階で周知すると、
偏見や差別を受けず、堂々と自己管理できるようになることも多い」と話す。

「個性」受け止め

 旭川市の政田美彩さん(32)は小学3年生の長男が4歳の時に1型糖尿病を発症した。
病気は、入学時はクラス内のみに周知していたが、本人の希望や学校側の提案もあり、その後全校児童に説明した。

インスリンポンプのモニターを手にする政田さんの長男。
普段は専用のウエストポーチに入れて生活しており、モニターで血糖の変動を確認している

 最初は、長男のつけているインスリンポンプを触りたがる子や、補食のジュースを「いいな」と言う子もいた。
しかし、「子どもは理解が早く、息子の個性として自然に受け止めてくれている」(政田さん)という。
長男は「ふらふらする時もあるけど、クラスの友だちが『大丈夫?』と心配してくれる」と話す。

 政田さんは市の事業を活用し、長男のクラスに看護師を配置してもらっている。
「補食を食べても血糖値が上昇せず、活気がない」と看護師から連絡があることも珍しくない。
その場合は補食を追加したり、政田さんが迎えに行ったりして様子を見る。
「いつ低血糖になるか予測できないことも多く、怖い。本人が管理に慣れるまでは周囲の理解と見守りが必要」と話す。

 1型糖尿病の患者会「北海道つぼみの会」は2018年から、
小中学校の養護教諭や管理職に向け病気についての研修会を開くほか、
受け入れ時の確認項目を資料でまとめ、希望する学校や保護者に配布している。

 会長で札幌市立月寒中校長の太田和幸さん(57)は保護者から
「学校にどう説明したらいいか分からない」といった相談を受けてきた。
太田さんは「学校間で受け入れ事例を共有する機会や研修が少なく、対応の差が大きかった」と指摘する。

 太田さんは1型糖尿病の子を持つ親でもある。
「思春期をへて感じることも一人一人違う。性格や状況に合わせ、
家庭、病院、学校の3者で自立を支える体制を構築したい」と話す。

【1型糖尿病】

ウイルス感染などをきっかけとした免疫異常が原因で、
膵臓(すいぞう)の細胞が破壊され血糖値を下げるホルモンのインスリンを自己分泌できなくなる。

 毎日自分で血糖をチェックし、インスリン量を注入することが必要となる。
従来は指先から血液を採って血糖値を「実測」し、自己注射で注入するのが主流だったが、
近年は腕や腹の皮下に挿入されたセンサーから血糖の変動を確認できるほか、
「インスリンポンプ」を用いる場合は、ポンプの操作でカニューレを介して腹部にインスリンを注入することができる。

 インスリンが効き過ぎて低血糖になると、脱力感、冷や汗、顔面蒼白(そうはく)などの症状が出る。
重症になるとけいれんや意識障害に陥り、命の危険もある。
血糖が下がった時はブドウ糖や菓子などの「補食」を速やかに食べて血糖を上げる必要がある。

 国の「小児慢性特定疾病」に指定されており、医療費受給制度の受給者は全道で約270人いるという(北海道保健福祉部)。
文部科学省の学校保健統計調査(2023年度)によると、
札幌市内の小中学校に通学する1型糖尿病の子は62人。
小学校では5~6校に1人、中学校では3~4校に1人いる割合になる。

2025年4月9日 北海道新聞より 転記